はじめに:高年収サラリーマンと「不動産投資の罠」
高年収のサラリーマンの方であれば、会社に「節税」「年金対策」を謳った不動産投資の勧誘電話がかかってくる経験は一度や二度ではないでしょう。
高い属性と安定した収入を持つあなたは、銀行にとって格好の融資先です。しかし、その「信用力」を逆手に取った投資には、危険が満ちています。
筆者の周りでも、勧誘に乗って投資を始めたものの、毎月の赤字と重いローン返済に苦しみ、過去の貯蓄を吹き飛ばし、将来の資産形成にブレーキがかかっている友人が多数います。
この記事では、特に高年収サラリーマンが陥りやすい「ワンルームマンション投資」の危険性を徹底解説し、その裏側にある構造的なリスクを明らかにします。
ワンルームマンション投資の構造的な問題点
「手軽に始められる」「管理が簡単」というメリットの裏で、ワンルームマンション投資には、高属性サラリーマンの財務を蝕む多くの構造的なリスクが存在します。
「表面利回り」という名の罠
業者が提示するのは、最も数字が良く見える「表面利回り」です。
- 実態: 空室リスク、管理費、修繕積立金、固定資産税、不動産取得税、保険料などを除外して計算されています。
- 現実: 実際の手取りとなる実質利回りは2~3%台になるケースも多く、ローン金利を差し引くと、ほとんどのケースで初年度から赤字になります。
高額な販売価格と出口(売却)の危険
投資用新築マンションは、販売会社の広告費や営業コストが上乗せされるため、一般的に相場よりも2~3割高く設定されています。
- 構造的欠陥: 「購入した瞬間に含み損」がある状態からスタートします。
- 売却リスク: 中古市場での売却価格はローン残高を下回ることが多く、いざ売ろうとしても「売却損」が発生し、売るに売れない(ローン地獄)状況に陥りやすいのです。
空室・家賃下落リスクが赤字を拡大させる
ワンルーム市場は供給過多の地域が多く、長期運用するほど収益が悪化します。
- 家賃下落: 新築時をピークに、築10年で15%、築20年で20~30%の下落は珍しくありません。
- 修繕費上昇: 築年数の経過とともに、管理費や修繕積立金は確実に上昇し、キャッシュフローをさらに圧迫します。
節税効果は「一時的な時間稼ぎ」に過ぎない
「減価償却費」によって一時的に不動産所得が赤字になり、所得税や住民税が減るという説明は事実です。
しかし、これは節税ではなく、税金の繰り延べです。将来的に減価償却が終わると、家賃収入が黒字化し、逆に税金が増加します。トータルで見れば、大きなメリットにならないケースがほとんどです。
数値で見るシミュレーション:10年で600万円以上の損失
具体的なモデルケースを使って、高年収サラリーマンがフルローンでワンルームマンションを購入した際の収支をシミュレーションします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 購入価格 | 3,000万円 |
| ローン条件 | 35年・金利1.5%(月々返済:約9.1万円) |
| 家賃収入 | 月10万円(新築時) |
| 諸経費 | 管理費+修繕積立金:月1.5万円 |
| 税金・委託料 | 固定資産税・管理委託料など:約1.3万円 |
① 運用開始(築1年)の年間キャッシュフロー
| 項目 | 金額(年間) |
|---|---|
| 家賃収入(空室率5%考慮) | 1,140,000円 |
| 諸経費・税金等 | ▲340,000円 |
| ローン返済額 | ▲1,092,000円 |
| 年間キャッシュフロー | ▲292,000円(月約▲24,000円の赤字) |
| : 初年度から毎月給与から赤字を補填することになります。 |
② 10年後の想定(赤字の拡大)
家賃が15%下落し(月8.5万円)、管理費・修繕費が上昇(月2万円)した場合:
| 項目 | 金額(年間) |
|---|---|
| 家賃収入 | 969,000円 |
| 諸経費・税金等 | ▲420,000円 |
| ローン返済額 | ▲1,092,000円 |
| 年間キャッシュフロー | ▲543,000円(月約▲45,000円の赤字) |
| : 赤字額が約2倍に拡大しました。 |
③ 築10年での売却時の想定
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 売却価格(中古市場) | 約2,000万円(購入時の▲1,000万円) |
| ローン残債 | 約2,300万円 |
| 売却損(持ち出し) | ▲300万円 |
総損失額の概算:
- 10年間の運用赤字:約▲300万円
- 売却時の持ち出し:約▲300万円
- 合計損失額:約600万円以上
高年収サラリーマンの「信用力」と「借金」が、結果的に600万円の損失につながるシナリオは、決して珍しくありません。
借金(レバレッジ)の恐ろしさ:損失を倍増させる危険
不動産投資の危険な側面の核は、「借金(レバレッジ)」です。レバレッジはリターンを拡大させると同時に、損失も倍増させる両刃の剣です。
レバレッジの構造:「小さな下落が致命傷になる」
自己資金1,000万円に対して、借入2,000万円で3,000万円の物件(レバレッジ3倍)を買ったとします。
| 項目 | 自己資金1,000万円のみ | 自己資金1,000万円 + 借入2,000万円(3倍) |
|---|---|---|
| 資産価値が30%下落 | 700万円(損失30%) | 2,100万円(損失30%) |
| 自己資金への損益率 | ▲30% | ▲90%(実質破産) |
価格が3割下がるだけで、自己資金のほとんどが吹き飛びます。これがレバレッジの本当の危険です。
借金は「相場が戻るまで待てない」リスクを生む
現金投資なら、含み損が出ても「持ち続けて回復を待つ」ことができます。
しかし、不動産投資での借金は、「毎月の返済」という鉄の鎖をあなたに繋ぎます。赤字が拡大し、キャッシュフローが回らなくなったとき、あなたは損失を確定させて売却(損切り)せざるを得ません。
借金は、「資産を持ち続ける自由」を奪うのです。
どうしても不動産で運用したい人への合理的選択肢:REIT
「不動産投資は危険」と言われても、どうしても不動産で運用したいと考えるサラリーマンの方には、REIT(不動産投資信託)の方が圧倒的に合理的です。
| 観点 | REIT(上場不動産投資信託) | ワンルームマンション投資 |
|---|---|---|
| 投資単位 | 数万円〜数十万円から可能 | 数千万円(ローン必須) |
| 分散効果 | オフィス、物流、住宅など複数物件・用途に分散 | 単一物件に全リスク集中 |
| 流動性 | 上場株式のようにすぐに換金可能 | 売却に数ヶ月〜数年かかる |
| 管理負担 | なし(専門家が運用) | 管理会社との連携や修繕の負担あり |
| 心理的負担 | 低い(価格変動は透明) | 高い(入居者・ローン返済・修繕対応) |
| 実質利回り | 分配金利回り4~5%前後(無借金) | 実質2~3%前後(高レバレッジ) |
REITは、少額・無借金(ノーレバレッジ)で、プロの分散された不動産運用に乗る最も合理的な手段です。
まとめ:「借金は避ける」という鉄則
高年収サラリーマンにとって、不動産投資は安易に手を出してはいけない危険な領域です。あなたの高い信用力は、業者の利益を確保するための「担保」に使われているに過ぎません。
- 甘い言葉に騙されない: 営業担当者は、物件を売った時点で20~30%のマージンを得ています。リスクを負うのは、投資したあなた自身です。
- 長期的な赤字を覚悟する: ワンルーム投資は、初年度から赤字になり、築年数とともに赤字が拡大する可能性があります。
- 借金(レバレッジ)は避ける: 借金を利用した投資は、成功すればリターンが大きいですが、失敗するとFIREへの道を一瞬で終わらせるほどの破壊力があります。
「破産する唯一の方法は、借金をしすぎることだ」――偉大な投資家チャーリー・マンガーのこの言葉を胸に、借金を活用した不動産投資は賢く避けるのが最善策です。
どうしても不動産で運用したい場合は、透明性が高く流動性のあるREITを検討しましょう。


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