インフレが進行する局面で、多くの投資家が「金」に注目します。「有事の金」「インフレヘッジとしての金」という言葉を耳にしたことがある方も多いでしょう。しかし、本当に金投資はインフレ対策として適切なのでしょうか。
結論:個人投資家には金投資をお勧めしない
先に結論を述べると、一般的な個人投資家にとって、インフレ対策として金投資を積極的に選択することはお勧めできません。その理由を、データと著名投資家の見解をもとに解説していきます。
関連記事;老後のインフレ対策|物価上昇に負けない生活設計と現実的な3つの対策
金投資の3つの問題点
1. 価格変動が激しく、安定資産とは言えない
金は「安全資産」というイメージがありますが、実際の価格変動は決して小さくありません。2020年から2024年にかけても、金価格は大きく上下を繰り返しています。
短期的には地政学リスクや金融政策への思惑で急騰することもありますが、その後の調整局面では大きく値を下げることも珍しくありません。インフレヘッジとして保有するつもりが、購入タイミングによっては大きな含み損を抱えるリスクがあります。
2. 本質的価値を生まない資産
投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェットは、金投資について極めて手厳しい見解を示しています。彼の批判は、金の本質を鋭く突いています。
何も生み出さない非生産的資産
バフェットは金について、利息も配当も生まず、将来的に何か新しい価値を生産することもない点を批判しています。企業の株式は利益を生み出し、配当を支払い、事業を成長させます。農地は穀物を生産し、不動産は賃料収入を生み出します。しかし金は、保有しているだけでは何も生み出しません。
彼の有名な言葉があります。「1オンスの金は、100年経っても1オンスのままだ」。つまり、金はどれだけ時間が経っても、それ自体は何も増えないのです。
「恐怖」への投資である
バフェットは金投資を「恐怖にロング(買い)すること」と表現しています。経済不安やインフレへの恐怖が高まれば価格は上がりますが、それは他者が自分より高い価格で買ってくれることを期待する「バカ理論(Greater Fool Theory)」に基づいた投機であると考えています。
金の価値は「誰かがより高い価格で買ってくれること」に全面的に依存しているのです。これは投資というより投機に近い性質と言えるでしょう。
実用性の欠如
バフェットは1998年のハーバード大学での講演で、金投資の不合理さを痛烈に批判しています。
「アフリカかどこかで地面から掘り出され、それを溶かして別の穴を掘って埋め直し、それを守るために人を雇う。火星人が見ていたら首をかしげるだろう」
銀が工業用需要が多いのに対し、金の工業的・実用的用途は限定的です。大半がただ保管され、見守られるだけの存在なのです。この指摘は、金投資の非合理性を見事に言い表しています。
3. 長期的なリターンはインフレ率とほぼ同水準:シーゲル教授のデータが示す真実
金投資の最も決定的な問題は、長期的なリターンの低さです。この点について、ペンシルベニア大学ウォートン校のジェレミー・シーゲル教授が著書「株式投資」で示したデータが非常に示唆に富んでいます。
200年以上のデータが示す厳しい現実
シーゲル教授は1802年から200年以上にわたる資産クラスのリターンを分析しました。その結果、金の実質リターン(インフレ調整後のリターン)は年率でわずか0.7%程度に過ぎないことが明らかになりました。これはほぼインフレ率と同水準であり、実質的な購買力の増加はほとんどないということを意味します。
つまり、金に投資しても、長期的には物価上昇に追いつくのがやっとであり、資産を実質的に増やすことは期待できないのです。
株式投資との圧倒的な差
一方、同じ期間の株式の実質リターンは年率約6.6〜7.0%でした。この差は一見小さく見えるかもしれませんが、複利効果を考えると驚くべき差になります。
例えば、100万円を30年間投資した場合:
- 金(実質リターン0.7%):約123万円
- 株式(実質リターン7%):約761万円
同じ期間で6倍以上の差が生まれるのです。これが複利の力であり、長期投資における資産クラス選択の重要性を物語っています。
インフレヘッジとしての金の限界
シーゲル教授のデータは、金が「インフレヘッジ」として優れているという通説に疑問を投げかけます。確かに金はインフレ時に価格が上昇する傾向がありますが、長期的には物価上昇率を大きく上回るリターンをもたらすわけではありません。
真のインフレヘッジとは、物価上昇を上回るリターンを提供し、実質的な購買力を増やしてくれる資産です。その観点では、株式こそが最も優れたインフレヘッジ資産と言えるでしょう。
個人投資家はどうすべきか:株式中心の長期投資が王道
シーゲル教授のデータが示すように、長期的な資産形成において株式投資に勝る選択肢はありません。では、インフレ対策として個人投資家は具体的に何をすべきでしょうか。
関連記事;R>G:働くだけでは豊かになれない時代にどう生きるか?
オール・ウェザー(全天候型)ポートフォリオと金
ここまで金投資の問題点を指摘してきましたが、実は著名な投資家の中には金をポートフォリオに組み入れている人もいます。
世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者レイ・ダリオは、バフェットとは対照的に、金をポートフォリオの不可欠な要素として非常に高く評価しています。
ダリオが提唱する「全天候型ポートフォリオ」は、経済の季節(成長・停滞・インフレ・デフレ)がどう変化しても安定して資産を守り、増やすことを目的とした戦略です。
個人投資家向けに提示された代表的な資産配分は以下の通りです。
- 株式:30%
- 長期米国債:40%
- 中期米国債:15%
- 金:7.5%
- コモディティ(商品):7.5%
金とコモディティを合わせた15%を「インフレや通貨価値の下落」への備えとして割り当てています。
ダリオが金を重視する3つの理由
バフェットが金を「何も生み出さない」と切り捨てるのに対し、ダリオは金を「最も信頼できる通貨」と定義しています。
- 「現金はゴミ(Cash is Trash)」という考え方 ダリオの有名な言葉です。中央銀行が紙幣を大量に印刷することで現金の価値は目減りするが、金は供給量が限られているため価値を維持できると考えています。
- 第3の通貨としての役割 彼は金を「ドルやユーロに代わる、中央銀行も保有する国際的な通貨」と見ています。法定通貨への信頼が揺らいだ時の代替手段という位置づけです。
- 分散効果 株や債券が暴落するような経済の危機的状況において、金はそれらと逆の動き(相関が低い)をするため、ポートフォリオのクッションになると主張しています。
最近の動向(2025年時点)
近年の世界的な債務増加やインフレ、地政学的リスクを受けて、ダリオはさらに金への評価を強めています。最近のインタビューでは、金の配分を従来の7.5%から10〜15%程度まで引き上げるべきだと推奨する場面も増えています。
彼は金を「リターンを得るための投資」としてだけでなく、現在の金融システムそのものが揺らいだ時の「保険」として持つべきだと説いています。
個人投資家への示唆
ダリオのアプローチから学べるのは、金を投資の中心に据えるのではなく、あくまでポートフォリオ全体のリスク管理の一環として活用するという姿勢です。アクティブに資産配分を調整できる投資家にとっては、ポートフォリオの5〜15%程度に金を組み入れることで、全体のリスクを抑える効果が期待できる場合があります。
ただし、これはプロの投資家による高度な戦略であり、一般的な個人投資家が安易に真似すべきものではありません。
個人投資家はどうすべきか
では、インフレ対策として個人投資家は何をすべきでしょうか。
最もシンプルで効果的な方法は、株式を中心とした分散投資です。優良企業は製品やサービスの価格を引き上げることでインフレに対応できます。つまり、企業の利益成長を通じて、自然とインフレヘッジの効果が得られるのです。
具体的には以下のような選択肢が考えられます。
- 世界株式インデックスファンドへの積立投資
- 高配当株やREITを含む分散ポートフォリオ
- インフレ連動債(物価連動国債)との組み合わせ
金投資を完全に否定するわけではありませんが、少なくとも投資の中心に据えるべき資産ではありません。もし金への投資を検討するなら、ポートフォリオ全体の5%以内に抑え、あくまで分散の一環として考えるべきでしょう。
関連記事:
まとめ
インフレ対策として金投資が注目されがちですが、価格変動の大きさ、本質的価値の欠如、長期リターンの低さを考えると、一般的な個人投資家にとって最適な選択肢とは言えません。
真のインフレ対策は、価値を生み出し続ける資産への長期投資です。株式を中心とした分散投資こそが、インフレに負けない資産形成の王道と言えるでしょう。


コメント